見本誌を見た方が007号をお買い上げ下さいました。ありがとうございます。
— 有象無象 (@uzomuzo) November 24, 2019
「どのようにして発想なさったのですか」と嬉しいお言葉を頂戴しました。ダンセイニへの憧れをベースにご説明申し上げたのですが、適切な説明だったか…と反省しております。#有象無象編集長の雑感 #文学フリマ #文フリ東京 pic.twitter.com/NWMqqg9HZw
自分の作品の解説など無粋というのは承知だが、第29回文フリ東京の会場で、お客様のご質問に答えきれなかった負い目もあるので、お許し頂いて、ここで007号に掲載した拙作「チーザウの見えざる猫」がいかにして着想されたかについて少しご説明しておきたい。ネタバレをなるべく避けるよう気をつけるつもりではいるが、ネタバレる可能性もあるし、何より作品を読まないではとりたてて読む意味がない文章なので、どうぞ未読の方は以下ご遠慮頂きたい。
さて、文フリ会場で上記お問い合わせくださったお客様に、「こういった作品はダンセイニの作品に憧れて作っております」と回答申し上げた。これは嘘偽りのない私の本心ではあるが、お客様の求める答えだったかどうか、少々自信が無い。
私の幻想文学短編は、ダンセイニの作品を指向しているとはいえ、その結果は惨憺たるもので、ダンセイニからはほど遠いものに仕上がっている。面白くないとは言わないが、だいぶゲーム小説の影響に引きずられていることは間違いない。
作品を読んだお客様がダンセイニ的な要素を私の作品に認めるかというとちょっと怪しい。だから、「いかにしてこの着想を得たか」とお尋ねの場合、それはダンセイニ的な要素の出自を尋ねているのではないのではないか。むしろストーリーの筋立てをお尋ねの可能性が高いのではないだろうか。
そして、それは、たいそう長い物語なのでございます……。
まずこの作品は006号掲載「騎士の呪文と姫の剣」の続編、と言ってよい。時系列的には過去になるが、続編である(ただし単独で成立するよう注意して構成しているので、007号だけ読んだ人は続編であることに気づかぬはずである)。
そのため、この「チーザウの見えざる猫」の物語が完了した後の設定は、すべて「騎士の呪文と姫の剣」につながっていなくてはならない。いわば、この物語の完了条件はこの「つじつま合わせ」であって、そこを満たすためにだいぶ苦労した。
そもそもこれを書いた動機は、「騎士の呪文と姫の剣」に登場するある人物の過去、特に「ある能力の取得」の場面を描こう、ということであった。このことは「騎士の呪文と姫の剣」を書いていた時からぼんやり構想していたので、いくつかの設定は考えてあった。たとえば、冒険商人の存在や、名前の交換の秘儀、などである。
しかしその設定を細部まで煮詰めてみると、だいぶいろいろ肉付けをしていかないとうまくいかないことがわかった。それで苦労した結果、前作よりもだいぶ長い物語になってしまった。私が提出した原稿の量を見た時、編集部員は「よくぞこんなに書いた」と喜んでくれたが、正直なところ、長くしようと思ったのではなく、どうしようもなく長くせざるを得なかったのだ。
この物語の中心はその人物が持つあるスキル、及び、その習得過程である。
当初の構想では、少年を主人公として、彼が生まれてからその「能力」を得るまでを描く冒険物語であった。さまざまな人物との出会い、希少な魔法の品物を手に入れる、死と別れ、等も用意されていた。しかしこれはだいぶ冗長になり、語りも退屈になってしまった。そこであらかじめ設定のあった冒険商人の物語を主軸に組み直し、それぞれに活躍の場面を持たせることにした。
竜は当初は登場する予定ではなかった。「悪代官的な人間」の領主に対する勧善懲悪を考えていたのだが、まともな人間が相手では、一夜にして城を明け渡すという物語にどうやっても現実味がなかったのである。そこでふと思い出したのが、RPG『幻想水滸伝』の一場面。廃城に住み着いた竜を倒し、城を入手する場面があった。これに倣い、竜が支配する城を入手するということにした。
この竜との駆け引きについては、要件がはっきりしていただけに相当悩んで考えた。
- 主人公の「能力」を活用しなければならない。
- 竜を排除して城の入手に結びつかなければならない。
悪徳領主の設定だった時はご託宣のような形で脅して追い出すことを考えていたのだが、託宣では竜がそこまで怯えて逃げ出す設定を作りきれず、あらかじめ「予言」で脅迫する現状のような形に落ち着いた。なお、この脅迫は、実は「騎士の呪文と姫の剣」の事件にもかかわりが生じているが、これをうまく結びつけることができたのはただの閃き、幸運以外のものではない。
今、最初の下書きを読み返してみたのだが、自分でもびっくりするほど違う物語だった。そこからあれこれ手を加え、つじつまを合わせるためだけにだいぶ紙面と労力を割いたので、自分としては本当に面白い物語に仕上がっているか、少々不安でもあった。
しかしながら、一人でもお客様が筋立てに感心し、買ってくださったのであるから、成功したと言っていいであろう。私としてはホッと胸をなで下ろす思いである。上記のお客様に心から感謝したい。
さて、この二つの物語はどちらも同じ世界の時間軸に展開しており、つい最近、この世界をベースにした物語を「フランペルの世界史」と呼ぶようになった。今の時点で以下の物語が「フランペルの世界史」に属している。
- 「竜の創造の顛末」…有象無象サイトにて公開中
- 「魔女集会で会いましょう」…カクヨムにて公開中
- 「グレンガランのこびと」…004号掲載
- 「騎士の呪文と姫の剣」…006号掲載
- 「チーザウの見えざる猫」…007号掲載
「騎士の呪文と姫の剣」と「チーザウの見えざる猫」が今のところ一番深い関係にある。もしよろしければ、併せてお読み頂けると幸い。今後も可能な限り、書き増やしていく予定である。
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